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15回めのモンゴル 2006-2017

2017年8月8日

理事の片岡功一先生は、2017年5月のモンゴルでの治療活動に参加され、今回で15回目となる活動参加から得た所感を寄稿いただきました。以下にご紹介いたします。

10年前から隔世の感あり。広がる経済格差

2017年のゴールデンウィークに、ハートセービングプロジェクトのメンバーとしてウランバートルに渡航し、小児循環器診療を行ってまいりました。今回の渡航は、私にとって15回目でした。5月1日に出発し、6日に帰国する日程でしたが、先に渡航して地方検診を終えられた検診班の皆さんと合流し、いつものように国立母子保健センターで、モンゴル人の小児循環器医らと共に心臓エコー検査とカテーテル治療を行いました。

空港から市内へ。日本のODAによる舗装道路

空港から市内。日本のODAによる舗装道路

2017年のウランバートル中心部

2017年のウランバートル中心部には高層ビルが立ち並ぶ

ウランバートル市内のゲル地区には地方から来たものの無職の人も大勢いる

一方ウランバートル市内のゲル地区には地方からやって来たものの無職の人も大勢いる

私は2006年以降、毎年1~2回渡航診療に参加してきました。その間にモンゴル国の経済は発展し、ウランバートル市街の景観も急速に変貌してきました。現在も多くの高層ビルが新たに建設されており、空港から市街に向かう道路は立派に整備され、その両脇には多くのマンションが立ち並んでいます。10年前をふり返ると、まさに隔世の感があります。交通渋滞や大気汚染の問題など、急激な発展のツケも目立ちますが、首都ウランバートルに住む多くの人々は便利さや豊かさを享受しているようです。一方で地方都市の変化は首都ほどでなく、昔ながらの生活を送る方たちもいるようです。統計調査が確立されていないことから実態を把握するのは困難だそうですが、急速に発展しつつある国につきものの経済格差は確実に広がっていると推測されます。

これが治療を受ける最初で最後のチャンスかも

医療費を支払うことが難しく、私たちのプロジェクトに頼るしかないという患者さんは、今も少なくありません。遊牧生活を送っている方たちは現金収入がほとんどなく、家畜などの財産はあってもお金の蓄えがないということもしばしば耳にします。ウランバートルで私たちの診療を受けるため、親族一同からお金をかき集めて遠方からはるばるやって来たという患者さんには、渡航の度ごとに何人かお会いします。全財産をかけてやって来た今回が、治療を受けるためのまさに「最初で最後のチャンス」だという患者さんもおられます。治療する患者さんの選択にあたっては、渡航前にモンゴル国の先生から治療候補者のリストをいただき、病気の重症度をもとに適否を伝えています。リストに載っている患者さんを優先的に治療するのが原則ですが、渡航期間中に来院されなかったり、私たちが心エコー検査でチェックすると事前の情報と違っていたりすることもあります。リスト外の患者さんも多く受診されますが、使用できる治療器具数や私たちの滞在日数には限りがあります。病気の重症度を第一に考え、可能な限り多くの患者さんを治療するように努めていますが、患者さんの選択の際には、ご家族の経済状況や住んでいる地域なども考慮しています。

受付に殺到する患者さんの父兄の方々

受付に殺到する患者さんの父兄の方々

診察前の体重測定

診察前の体重測定

右の女の子は治療のために田舎から出て来る交通費を、村の長老が寄付を募ってウランバートルへ来ることができた

右の女の子は治療のために田舎から出て来る交通費を、村の長老が近所へ寄付を呼びかけようやくウランバートルへ来ることができた

本プロジェクトは2001年にスタートし、今日まで絶えることなく継続しています。今までの渡航で600人を超える患者さんにカテーテル検査を施行し、うち500人以上を治療しました。地方検診も21の全県で施行し、2巡目が始まっています。ハートセービングプロジェクトは当初からボランティア活動ということで、参加者は手弁当で渡航していました。特定非営利活動法人になってからは、広く多くの方々から寄附をいただき運営されていますが、私たち参加者も年会費のほか毎回航空券代+αの金額を寄附しております。毎年無事に複数回の渡航診療を続けられますことを、ご協力くださる皆さまがたに改めて感謝申し上げます。

モンゴルの心臓病のこどもたちのために

エルデネット市の病院で検診をした赤ちゃん

エルデネット市の病院で検診をした赤ちゃん

今までの活動期間中、モンゴル国の政権が何度も交替しましたが、その度に前政権の政策見直しが行われ、医療面にも大きく影響が及びました。保健大臣が交代すると、私たちの活動を「全面的に支援する」との口約束は全て反故にされてしまいます。政権交代に伴って病院のトップが交代することもしばしばあり、その度ごとに私たちの活動を理解してもらうよう、羽根田紀幸先生が面談の機会を設けてこられました。たとえ種々の環境が変化しようとも、私たちは「心臓病で苦しむモンゴル国の子どもたちを助けたい」との思いのもと全国から集まり、変わることのないスタンスで渡航診療に臨んできました。単発ではなく息の長い活動を続けるためには、各方面に協力を要請することも必要ですが、両国の大使、特にフレルバータル駐日モンゴル国特命全権大使には多大なお力添えをいただいてまいりました。このような活動を円滑に進めるには、いわば「陰の努力」も重要ですが、 事務局やモンゴルのボランティアスタッフが引き受けてくれています。関係各方面への連絡や交渉ごとは、私たち医療者の苦手な領域でもありますので、活動を縁の下で支えてくれる彼らの働きにただただ感謝するばかりです。

 

モンゴル国の人々による「自立した医療体制の確立」

日本・モンゴル合同の医師、ボランティア。国を超えて協力体制

日本・モンゴル合同の医師、ボランティア。国を超えて協力体制

本プロジェクトは、あくまでモンゴル国の人々による「自立した医療体制の確立」を目指しています。心臓カテーテル治療に関しても、以前は日本人医師らが主術者でしたが、現在はモンゴルの先生がたが主術者となり、日本人医師は助手としてサポートする形が根付いています。愛媛大学で檜垣高史先生のもと勉強されたバエルマー先生をはじめ、モンゴルの先生がたの知識、医療技術は確実に向上しています。今後はモンゴルの先生がたで診療していくことができるよう、しっかりとした体制を構築していただかねばなりません。母子センターの先生がたは、各県の拠点病院に所属する小児科医が、小児循環器診療のトレーニングを受けるプログラムを進めています。私たちが主たる対象としている先天性心疾患のうち、カテーテル治療で治癒・改善できる疾患は限られています。多くの疾患の治療手段はやはり外科手術です。モンゴル国では小児心疾患の外科手術は、成人の心臓血管外科医が限られた症例にのみ施行している状況で、単純な疾患以外の手術はほとんどなされていません。今後、小児循環器診療の領域では、この小児心臓血管外科手術の実現が最優先の目標といえるでしょう。

片岡功一先生(左)と共に心カテーテル手術を行っているモンゴルの医師たち

片岡功一先生(左)と共に心カテーテル手術を行っているモンゴルの医師たち

モンゴルの子どもたちの心臓病をモンゴルの先生がたが治療するという、最終目標への道のりはまだまだ長いかもしれません。社会福祉制度の充実により医療費が公的に助成されなければ、経済的理由から治療を諦めざるを得ない患者さんはなくなりません。モンゴル国の行政を動かすには、まずはモンゴル国の社会全体に小児医療の重要性に対する認識が共有される必要があります。カテーテル治療の手技については、モンゴルの先生がたに全て任せるという「出口」を検討する段階に至っています。しかし、医療費の助成が不十分な間は、目の前にいる心臓病の子どもを救うために従来どおりの活動が必要です。モンゴルのボランティアスタッフの働きかけなどもあり、最近ではモンゴル国での当プロジェクトへの寄附も少しずつ増えてきています。「モンゴル国の子どもたちをモンゴル国の人々が支え、助ける」ことは、極めて自然な考えです。このような意識が将来行政を動かす力につながっていくことを期待しています。

次のステップを視野に

最近では、他のアジアの国からも活動の要請がきています。今回のモンゴル国渡航と同時期に、富田英先生と藤井隆成先生がウズベキスタンに渡航なさいました。本プロジェクト設立時の大きな目標の一つである、モンゴル人医師への心臓カテーテル治療技術のバトンパスは実現しつつあります。今後は、要請に応じて、 活動の場をモンゴル国以外の国へと拡げていくことも検討する必要があります。幸い、長年にわたる活動を通じて、趣旨に賛同してくださる多くの医師が全国におられ、活動への参加を希望してくださいます。さらなる活動のためには、治療器材購入などの資金が必要となります。皆さまがたの一層のご支援をお願いいたしますとともに、私たち医師もより質の高い診療に努めるよう、決意を新たにしております。

 

最後に、この活動を通じてお会いすることのできた、モンゴル国の多くの患者さんとご家族、いまだお会いしていない患者さんとご家族が、幸せに過ごされるようお祈りいたします。私たちの活動を日々支えてくださる皆さまに、心から感謝申し上げます。

自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児手術・集中治療部 片岡功一